2011年4月アーカイブ

後継者選びのポイント

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質問
後継者選びのポイントは?
答え
選ぶ前の準備が最も重要です。自社の状況把握や承継後の経営体制などを事前に検討しましょう。

事業承継というと、つい、後継者や相続の仕方から始めてしまいがちですが、「段取り八分、仕事二分」という諺がある通り、後継者選びも(もちろん、事業承継そのものも)事前の準備がとても重要です。

自社の現状を正確・詳細に把握する

中小企業の経営者は、自社のことは(頭の中では)よく分かっているつもりでも、(紙の上に)まとめたことは一度もない場合がほとんどです。 社内外がどういう状況になっていて、それに対して現経営者がどう関わっているか、きちんと整理しましょう。

後継者候補を漏れなく洗い出す

事業承継を慎重に進めるために、候補を網羅したリストを作ることは大変重要です。 リストには、氏名を羅列するだけではなく、各候補者がどういった資質を持っているか、彼・彼女に承継した場合、どのような課題や対応策があるかを記載しましょう。

会社を動かす組織・仕組みを準備する

後継者は、現経営者のクローン(複製)ではないので、現経営者がしてきたことの一部は、後継者にはどうしてもできません。 逆に後継者は将来、現経営者がやらなかったこと・できなかったことに取り組む必要があります。 後継者として最適な人材と同様に、後継者をバックアップする社内のルールや業務手順を検討しておきましょう。 img01.gif

質問

後継者選びにかかる期間は?

答え

後継者候補が明らかでない場合は、7~10年程度かかると考えておきましょう。

社長にとって、事業承継の主な節目は「事業承継の必要性を認識する時」「後継者を決定する時」「後継者と交代する時」「引退する時」となるでしょう。 


このうち、後継者が決まってしまえば、交代・引退の時期は社長の判断である程度前後できるでしょう。 しかし、後継者が決まっていない場合、事業承継を認識してから後継者を決定するまでの期間は、なかなか社長の意思ではコントロールの効かない、経営上のリスク要因となります。 


ある調査((社)中小企業診断協会)によると、事業承継の必要性を認識してから後継者を決定するまでに要した期間は、(すぐに決定した場合を除くと)2年~26年と幅があり、全体の4割が、7年~10年かかっています。 これは見方を変えると、「全体の7割が10年以内に」「全体の7割は7年以上かかって」決定している、ということです。 候補が明らかでない場合、後継者選びは 7~10年程度かかると考えておいた方が良さそうです。


不測の事態に備え、早めの準備を!

「平成22年簡易生命表」によると、65歳の男性の平均余命は約19年、10年後の生存確率(10年後の生存数との比率)は約83%です。遅くとも50代後半のうちに後継者選びに取り掛からない場合、社長はロシアン・ルーレット並のリスクを取っていることになります。 


女性の場合、この比率が83%になるのは72歳です。 後継者選びを始めるのが遅くて良い、という意味ではありませんが、女性社長の方が(男性社長よりも)猶予があります。

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質問
後継者の選び方(事業承継の方法)には、どんなものがある?
答え
大きく4通りあります。親族内承継が基本ですが、今後はM&Aが増加すると見込まれます。

親族内承継

事業承継の基本となるパターンです。後継者が親族内で確保できれば、社内外の理解を得られやすいメリットがあります。
後継者の経営者としての資質の確保、後継者への経営権の集中と円滑な相続の両立、などが課題となります。

親族以外の従業員等への承継

親族内承継と比べて選択肢が広く、経営理念や実務をよく理解していることや、取引先から評価されていることなどが期待できます。
株式の取り扱いが最大の課題で、オーナーである現経営者から株式を買い取るかどうかで、以下の二つに分かれます。
  1. MBO(従業員がオーナーから株式を買い取る)
  2. 所有と経営の分離(従業員は、株式を買い取らずに経営を執り行う)

M&A(第三者への株式売却・事業譲渡)

今後、事例が増えることが予想されているのが、M&Aです。
後継者の人選や教育が不要になるメリットがあります。条件が折り合う買い手を見つけること、経営理念等を承継すること、などが課題となります。

廃業

どうしても事業が継続できない場合、廃業を選ぶことになります。 img02.gif

質問

親族内承継の注意点は?

答え

関係者の理解・納得、次期経営体制への世代交代、効果的かつ円満な財産の配分に努めましょう。

親族内承継は、事業承継全体に占める割合こそ年々低下していますが、依然として最も一般的な承継方法です。 後継者の適性が最も重要なポイントになりますが、ここではその他に気を付けるべきポイントをあげます。
  1. 社内外の関係者に公表し、十分に説明する
    親族内承継は比較的、周囲の理解・納得を得られやすいメリットがありますが、だからと言って、何もしなくて良い訳ではありません。 事業承継の時期や段取り、今後の経営方針など(事業承継計画)を公表して、関係者に丁寧に説明し、納得・理解を得ましょう。
  2. 次期経営体制への世代交代を実施する
    現経営者から後継者へ世代交代するということは、多くの場合、現経営者を支えた経営幹部も世代交代すべき時期に来ています。 後継者をサポートする、将来の経営陣を具体的にイメージしながら、現経営幹部ともよく話合い、円滑な引継ぎを実施しましょう。
  3. 後継者および他の相続人へ分配する財産とその方法を決める
    法的な制約などの個別事項については別途説明しますが、ここでのポイントは、後継者の経営を安定させるため、
    1) 経営権(議決権)や事業に必要な資産の所有権が集中していること
    2) 後継者以外の相続人に十分配慮した財産の配分が行われること
    の二点を両立させることです。

親族内承継のポイント

質問

従業員に承継する際の注意点は?(その1)

答え

まず、社長個人が関わる資産と負債を明らかにしましょう。

多くの中小企業では、会社の資産・負債と、社長個人の資産・負債の区別があいまいになっています。  社長の資産・負債が親族に引き継がれ、その親族が事業を承継する場合はあまり問題はありません(問題がなくはないのですが、承継は比較的スムーズに進みます)。  ところが、いわば赤の他人である従業員に事業を承継する場合、どの資産・負債が会社のもので、どれが社長個人のものかが、大きな問題となります。

ここではまず、この「資産・負債」を明らかにするステップについて説明します。

一般的な事業承継マニュアル等は「会社の資産・債務を洗い出しましょう」といった記述にとどまる場合が多いですが、できれば、業界に詳しく、中小企業の財務デューデリジェンス経験(企業再生などを含む)が豊富で、社長の耳に痛い指摘も辞さない専門家(税理士、公認会計士など)に依頼することをお勧めします。 ちなみに、この「デューデリジェンス(調査)」は、親族内承継の際にも有効です。

この段階で、資産や負債の全てが一覧できるようになるだけでなく、以下のような実態が明らかになります。 
  • 資産の実態~資産の不良化・毀損はないか、どの資産が会社所有でどの資産が個人所有か、事業に必要な資産のうち個人所有のものは何か、など
  • 負債の実態~どのような債権者に対して負債があるか、社長や役員などに対する負債、社長の個人保証や担保提供はどうなっているか、など
  • 株式の実態~正確な株式の保有者と保有割合はどうなっているか、議決権制限株式などの種類株式はあるか、従業員が株式を買い取る場合いくらかかるか、など

会社のオーナーでもある社長から、親族以外の従業員へ事業承継を行う場合、特定の従業員(次期社長候補)ありきで話が始まる場合が多く見られます。 実際には、ここで示した「社長個人の資産と負債の洗い出し」、および後程説明する「従業員の資質の見極め」「企業文化の承継」を踏まえて進めることが、承継の成否を左右すると言えます。

会社の資産・負債を明らかにする

質問

従業員に承継する際の注意点は?(その2)

答え

従業員が企業家の資質を持つことと、従業員へ企業文化を承継することが重要です。

創業社長が一代で築いたり、代々親族で承継してきた事業を、初めて従業員に承継する場合など、従業員には、企業家(アントレプレナー)としての意識と資質が求められます。

一般的な事業承継マニュアル等は「株式や事業用資産を買い取るための従業員の資力や、社長の債務に対する個人保証や担保の引き継ぎが問題となります」といった記述が多いですが、従業員にはまず、今の会社を承継しない場合は、同業種で起業するくらいの心構えを持つことや、自己資金や借り入れ金の調達を行える(一人で全額行うかどうかは別として)計画性が必要だと言えます。

これらはいずれも、企業家(アントレプレナー)として必要な資質であり、意識して身に付けることもできますが、個人差が大きいので、事前の見極めが重要です。

また、従業員が後継者候補として中途採用されて、会社の在籍期間数が比較的短い場合など、従業員には、企業文化を理解し承継する意思と能力が求められます。

今の会社は事業を続けていく上で、組織として身に付けた、事業に対する価値観や、業務の進め方(プロセス)があります。 例えば、挨拶や整理・整頓の徹底あったり、コストダウンや節約の意識、あるいはお客様に付加価値を提案したり、資金繰り(キャッシュフロー)を確保したりする仕組み(仕事の進め方)だったりします。 これらは全て、企業文化を構成する要素になります。

後継者(候補)は、どうしても「自分ならこうする」と、現状を否定的に捉えて、現状を変革する方へ意識が向かう傾向があります。 まず、今の企業文化を理解して、それを承継する意識が求められます。 もっとも、企業文化の承継には、従業員(後継者)の努力だけでなく、社長の協力が不可欠です。 企業が事業を継続できる理由(企業の存在価値)を、経営のあらゆる側面から後継者に伝えられるようにしましょう。




企業家の資質見極め・企業文化の承継

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